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【製作事例】1968 Guyatone EB-15ピックアップリペア

【製作事例】1968 Guyatone EB-15ピックアップリペア

ねこだまり工房にて修理を行いましたピックアップ製作事例のご紹介です。

1968 Guyatone EB-15のピックアップリペア

HPよりお問い合わせいただきまして、ピックアップの巻き直しを希望したご相談でした。対象の機材は、1968 Guyatone EB-15のピックアップ。

Guyatoneといえばビサール系が人気ですが名称からGibson系列のエレキベースかと思っていたのですが、アップライトベースとのことでした。

アップライトベース自体珍しい部類になってしまいますし、その中でもGuyatoneのものとなると見た事がありません。症状としては、「音が異様に小さい」との事でしたので、内部断線か配線の不具合が予想される状態です。

実物を見てみないと、修理の可否も判断ができない為、段階的な修理内容による概算価格を提示し、オーナー様に現物をお送りいただくことになりました。

◆修理の提示内容

1.配線の微調整・微修正で修理が完了した場合

簡易修理費として、概算2,000円+税

2.診断の結果、修理が不可の場合 

返送料のみ請求

3.全て巻き直しになる場合

シングルコイル4点構成の為、概算で10,000~15,000円+税

4.中身をほぼ全て作り直す場合

オリジナル形状での作り直しの為、概算20,000円+税

今回、修理の際はピックアップのみを触らせていただいています。オーナー様からいただいた実機の写真はこちら。初めて見ました。

■診断の開始 原因の特定 通電確認

到着したピックアップを確認すると、オリジナリティ溢れる独特の構造になっています。弦1本に対して、シングルコイルを1つ配置して、合体させている構造でアーチ状に配置、ピックアップカバーなどもオリジナルで溶接・研磨・表面処理をして作られている様です。

ねこだまり工房にて作業を行う場合、リスクを伴う分解などの前には必ずオーナー様に説明の上、承諾を得て作業を行っています。その為、到着時点では見た目上での診断からスタートです。

まず、ピックアップが機能しているかという視点において確認するべき点は、「通電」と「構造」です。抵抗値が発生しない状態になっていれば音は出ません。

今回のピックアップを測定してみると、「0.15k」でした。「なんで?」って感じの数値です。逆に「0k」の方が分かりやすいのですが、一般的に異常値であることに間違いはありません。

 少なくとも、コイルが断線していれば通電しませんので、断線してない可能性も考えられます。そして、年代から考えても比較的状態が良いので「構造」の視点を確認してみることにしました。

■続・診断 原因の特定 構造確認

手元で確認するまで、裏面の構造が分かりませんので予想では、「ハムバッカーの様な構造」「シングルコイルが4つ」のどちらかと思っていました。
 
結果としては、「シングルコイルが4つ」で、ごちゃっとした配線になっています。構成要素としては、各コイルから線が3本出ていて、2芯リード線にまとめられている状態です。厄介な点が、この3本出ている線が4つとも同じなのか、違うのかという点です。逆巻・正巻で入れ替わっている場合も中にはあるので…。
 
今回、気になったのが配線がむき出しになっていた事と、ハンダが古い状態になっている事でした。これらが理由の場合は、「アースと接触してしまって音が出ない」パターンや、「ハンダが剥がれ欠けていて、不安定。よって抵抗値が異常値」という可能性が考えられます。
 
少し気になる点としては、1968 Guyatone EB-15との事で、この年代のギター・ベースの中には独自構造になっていて、基本理論が通用しない作りのものもあります。ビサールなど特徴的なものが多いメーカーでもありますので、現代で一般的とされているピックアップ構造とは違う作りになっている可能性もありました。
 
この場合は、修理をしても現代で一般的に使用できない可能性も存在していまいます。その為、巻き直しを前提として、現在の所感や診断内容をお伝えしつつ、診断を正確にするためにハンダを溶かして分解することに許可いただく為にオーナー様へご連絡しました。
 

オーナー様への確認内容

・ハンダを使用して分解、簡易補修を行って良いか。そこで修理ができた場合は、完了とする。

・巻き直す場合、イメージするサウンド傾向・プレイスタイルの確認

・最悪の場合、巻き直しができない場合や、部品破損があった場合に、中身が別物になる作り直しになることについて

■続・分解 内部分解と故障理由

早々に快諾いただきまして、作業を続行です。ハンダを付け直してみても、異常値に残念ながら変わりありませんでした。次は、分解してみて全てのコイルを確認し、どこに異常が出ているのかを特定する必要があります。

分解してみると、やっぱり面白い構造になっていました。

小さなコイルの中央に、金属部品で凹凸のある部品を配置して、金属プレートに接着してある大型磁石の磁力を伝達する構造です。ハムバッカーに近い構造ではあるのですが、一般的ではありませんし、この構造にする為に、汎用部品が一切使えない構造になっていました。

ただ、ここでおかしな事が見つかりました。コイル単体で通電確認をしてみても、全て通電します。つまりコイルには不良がないという事です。

また状態を見ても、破損がある様な状態には見えないので、故障理由が掴めません。そして、一般的な解釈でみると、コイルも異常値なのです。1つのコイルが「約0.6k」と、普通のSTと比較した時の1/10の数値です。

ここで、再度最初の配線状態を確認してみると、故障理由が分かりました。配線方法が間違っていて、出力を打ち消す様なつなぎ方になっています。

ただ、また困惑ポイントなのが、このピックアップが「オーナー様が使えていて、突然おかしくなった」なら、上の理由は通用しません。

「中古で入手したけど、音が出ない・小さい」ならば、噛み合ってきますが、そうすると、異常値のコイルの説明が付きません。正しい繋ぎ方をした場合に、想定できる抵抗値が「約2.5k」となります。これでも、普通のSTの半分です。

先ほど気になってしまった点が頭を過ります。

『1968 Guyatone EB-15との事で、この年代のギター・ベースの中には独自構造になっていて、基本理論が通用しない作りのものもあります。ビサールなど特徴的なものが多いメーカーでもありますので、現代で一般的とされているピックアップ構造とは違う作りになっている可能性もありました。』

万が一ですが製造した際のコンセプトから破綻している可能性も考えなければいけません。途中で誰かの手が加わって壊れたものなのか、経緯を明確にするためにオーナー様に確認の連絡を取りました。

オーナー様への確認内容

・このベースは、「オーナー様が使えていて、突然おかしくなった」のか、「中古で入手したけど、音が出ない・小さい」のか。

・可能性の問題として、製造した際のコンセプトから破綻している可能性もあるかもしれないという点。

・正しい配線に修正しても、3k未満の一般的には低い数値になってしまうが、そういったコンセプトで作られているピックアップも稀にあるということ。

早々にご連絡いただいて、オーナー様のご意向としては、

「中古で入手時から音が出ない症状のあったもので、一般的に使いにくい仕様になってしまっているならば、全て作り直しになっても良い。」

との事でした。巻き直しを視野に入れてスペック提案の為の検討などを進めることになります。

■検証作業中のもしかして…?

抵抗値を意図的に落とす仕様について稀にある事なのですが、「G&L等の様に磁力を強化した場合」「ハムバッカーなどの連鎖させる構造の場合」などでは、意図的に低い抵抗値にした上で、ローノイズ仕様を目指す設計もあります。

製造した際のコンセプトから破綻していなかった場合に、そういった狙いもある可能性があったことから、正しい配線に繋ぎ直して検証作業を行ってみることにしました。

比較対象として、抵抗値10kのアルニコ5JBピックアップと比較してみると…。

パワーも見劣りせず、ローノイズ仕様で素直なエフェクトノリの良さそうなサウンドが出てきます。

頭の中に「???」が一杯なのですが、可能性として考えられるのが設計上はこの音が正しくて、製造時の配線作業においてミスがあり、誤った配線のまま世の中を漂い、現存していたという可能性です。

「そんなことある?」という感じなのですが、配線・ハンダも古く、アップライトベースという独特なものであったが故にアンプに繋がず使う方などの手を経てきたかもしれません。

オーナー様は、ロックバンドでの使用を考えられていましたので、このサウンドが「合わない音」であるならば、巻き直しを推奨するところなのですが、普通に使えそうです。

「作り直しで良い」とご依頼いただいている立場においては、そのまま作り直してしまっても良いのかもしれませんが、「50年本領発揮できなかったピックアップ」であるならば、一度オーナー様に使ってみて欲しいと思い、異例の提案を行いました。

オーナー様への提案内容

・この修理を、現段階で終了して、正しい配線にしたものをお試しいただく。

・試してみて、気に入らない・気になる点があるのであれば改めて巻き直し・改造対応を行う

とご連絡したところ、使ってみていただけることになりました。またご意向として「リード線を長いものにして欲しい」という希望があり、在庫資材の中で銀メッシュ線に交換させていただきました。

修理完了! 振り返りと反省点

オーナー様の手元へ到着し、ご確認いただいたところ、バンドの大音量でチェックいただけた様で、下記の様にコメントいただきました

『プレシジョンベースにも負けないパワーで、クリアにアンプをドライブさせることができ大変満足しております。

弦の揺れ幅が大きい為、ピックアップ自体をそこそこ下げなければクリップしてしまうほど十分な音量が得られました。
音色の方も、原音をナチュラルにそのまま増幅してくれております。』
※オーナー様より送っていただいた写真

問題なく使用できるとの事で、本修理は完了となります。

振り返りと反省点として、ビサール系の特殊なピックアップという先入観から、「もしかしたら使えないかもしれない」と認識してしまっていたのが、ややこしくしてしまったかもしれないと反省です。

またオーナー様のお手元で、デフォルトには存在していなかったカバーアースを追加施工されたとご連絡いただきました。設計意図的には、アップライトベースである事から、「カバーアースはなくても良い」となったのだと思いますが、演奏スタイルなどの確認をしっかりと行っていれば、当工房で施工しお届けできた内容でしたので反省点として追加です。

各々、人それぞれ感じ方や考え方があるかと思いますが、今回のピックアップ修理は「不幸な出来事により、50年本領発揮できなかったピックアップを、本来の仕様通り使用できる様にした」と、ねこだまり工房では考えています。

思い通りのものにカスタマイズしてしまう事は、いつでもできますが、折角縁があって手元に来て、作りも状態も悪くなく「壊れている」わけではないなら、活かしてみるのも良いのではと思いました。

オーナー様にも、不要なカスタマイズ費用が発生してしまいますので、差し出がましい提案をしてしまいましたが、ご快諾いただけて、ご満足いただけて良かったと思う次第です。

今回、ご縁いただいて実物を始めて拝見しましたが、「遊び心」や「挑戦心」の様なものを感じられるピックアップが50年以上前からある事に感動しています。

同時に現代においても、「遊び心」や「挑戦心」のあるピックアップを作ってみたいという良い刺激になりました。

修理品は、ねこだまり工房にて手を入れてしまっているオリジナルではない状態となりますので、簡易の目印を貼らせていただきました。今後も、修理品には目立たないワンポイントを貼り付けしていく事になるかと思います。

 

まとめ 費用・仕様・期間について

修理内容 ピックアップのリペア 診断 
修理仕様

1968 Guyatone EB-15ピックアップの配線修正

リード線交換

材質:銀メッシュ線

修理費用 3,000円+税(返送料含む)

オーナー様

負担額

3,300円+郵送費1回(ヤマト運輸)

付属品

なし

修理期間

平均1~2週間程度。

今回:診断2日、配線修正作業2日

保証内容

通常使用範囲での不具合発生時の無償補修

 

ご依頼いただきまして、誠にありがとうございました。ピックアップ巻き直しに関するお問い合わせ等ございましたら、お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。

ねこだまり工房株式会社

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