【製作事例】Fender WIDE RANGE HUMBAUCKER 巻き直し
ねこだまり工房にて修理を行いましたピックアップ製作事例のご紹介です。
Fender WIDE RANGE HUMBAUCKERのリワインド
HPよりお問い合わせいただきまして、Fender社のワイドレンジハムバッカーの修理を依頼したいとのご要望でした。
不具合内容の詳細をお聞きすると、ハムバッカーの片側のコイル抵抗値が測定不能なことから、断線している可能性が高いと推測できる内容でした。
しかし、写真を送っていただき確認してみるとほどけている線が見えます。リード線に取り付ける段階で断線してしまっただけで、適切に繋ぎ直せばオリジナルのまま修理できる可能性もありました。
オーナー様のご意向を確認すると、可能な限りオリジナルを尊重したいとの事で、巻き直す場合もオリジナルのスペックを指定したいというご意向であった為、下記の提案を行い、受付させていただきました。
◆提案内容 現物の状況によって変動する修理メニュー
・完全断線してしまっている場合は、新規銅線で巻き直しの上修理を行う
・部分断線でオリジナルのコイルが使える場合は、簡易修理の費用をご請求させていただく
・現物診断の上、重篤な破損などがあり、巻き直しも困難な場合は、返送料のみご請求させていただく
一律巻き直しとして料金請求となるのは、ねこだまり工房の価値観にはありませんので、変則的ですが修理内容によって費用変動とさせていただきました。
また、今回の修理依頼の目的を、『健全な状態で使用できるピックアップにする事』と設定しておりましたので後述の保証範囲とさせていただきました。
抵抗値の予測、巻き直しスペックの確定
Fender社のワイドレンジハムバッカーを調べてみると、抵抗値が10~11k程の幅がある仕様が多く、今回のご依頼品はオーナー様がビンテージ品を調達されたブリッジ用個体との事です。
ただ、今回の個体が推定値10.4kとブリッジ用にしては少ない抵抗値になっていました。測定環境によって変動するのですが、巻き直す場合の推測値をWEB情報の巻き数6200~6800回、11kに合わせるか、現物に合わせるかの判断が必要です。
オーナー様のご意向は、元々と同じ値にしたいとの事でしたので、予想されるコイル形状から係数を当てはめて、AWG42ブラックエナメルを使用する前提で巻き数は、6250~6300回をおすすめさせていただきました。
実際の巻き数は、実物を預かりの上、生きている方のコイル数値を測定し微調整を行う段取りで、オーナー様に修理品を郵送いただきました。
巻き直しの即日対応
当工房に届き、その日のうちに確認したところ、当初理想としていたほどけているコイルを繋ぎ直す方法での修理は不可という判断になりました。
繋ぎ直してみても、抵抗値が発生せずという状態で、中ほどで断線してしまっていて繋がっていないという可能性。または、ほどけているのはどちらも巻き終わりの線で、コイルとして機能しない状態という可能性。と、どちらもそのままでは修理不可という判断になりました。
修理をする場合は、巻き直しが必須になる為、スペック確定の為に生きているコイルを測定したところ、控えめな5.35kという数値だったので巻き数としてAWG42 6250回をおすすめ致しました。
オーナー様にご連絡したところ、すぐに修理のご同意が取れましたので、即日巻き直しを行い製作する事ができました。
またオリジナルを確認すると、ポッティング処理がされていない質感でしたのでご意向を確認し、ノーポッティングで製作する事になりました。
巻き直しの結果、5.4kとほぼ狙い通りの数値になり、ブリッジ用との事でしたのでブリッジ用配線で製作。到着日に発送する事ができました。
◆不具合の発生 ミックスポジションでのフェイズアウト
オーナー様の手元に到着し、すぐにご確認いただく事ができまして、仕上がりや抵抗値などの単体での使用感には納得いただけたのですが、ミックスポジションでのフェイズアウトが発生してしまうとの事でした。
使用環境をお伺いすると、現行品のワイドレンジハムバッカーと、今回修理したビンテージワイドレンジハムバッカーを合わせて使用したいとの事で、ブリッジ用になっている修理品をネックで使用したいとのご意向でした。
単体での使用が出来ているのであれば、修理としては完了しているのですが、今回の目的を前述の様に、『健全な状態で使用できるピックアップにする事』と設定しておりましたので、保証範囲として補修させていただく事に致しました。
可能性として想定されるのが、幾つかパターンがあり、実物を拝見しないと断定できない状況の為、搭載したい現行品と修理品を合わせて郵送いただき、診断してみる事に。
◆メーカーの製作方法の違い ピックアップのマッチング作業
現行品を確認してみると、ホビン材質も銅線も異なる仕様になっていました。可能性として現行品とビンテージ品で構造が違うかもしれない事も想定していましたので、素材が違うと不安がよぎります…。
詳しく診断したところ、可能性としてはメーカーによる制作方法の違いと考えられます。
今回、ブリッジ用としてお聞きしていただけでしたので、汎用的なギブソンスタイルの配線方法をしていますが、Fender社のものは反転している状態でした。仕様なのか、今回のものだけなのかは断定できませんが、現行品に合わせて修理品を調整する事でフェイズアウトが解消できる見込みになります。
配線内容を修正し、再度オーナー様の元へ郵送いたしました。
修理完了! 振り返りと反省点
オーナー様の手元に到着し、再度ご確認いただいたところ無事にフェイズアウトが解消できたとの事でした。これにて修理完了となります。
振り返りと反省点として、あくまでも壊れたピックアップの修理という想定で打ち合わせを進めてしまっておりました。最初の段階から、使用環境やどの様に使いたいのかを発想を広げて聞き取りをしていれば、修理受付の際に現行品も添えていただく等、再送の手間なくマッチング作業できたのが反省です。
オーナー様にはお手間おかけしてしまいましたが、正常に使用できる環境になって良かったと思っているところです。今後は、聞き取りをより丁寧に行っていきます。
修理品は、ねこだまり工房にて手を入れてしまっているオリジナルではない状態となりますので、簡易の目印を貼らせていただきました。今後も、修理品には目立たないワンポイントを貼り付けしていく事になるかと思います。
まとめ 費用・仕様・期間について
修理内容 | ピックアップコイル巻き直し、リワインド |
修理仕様 |
Fender ワイドレンジハムバッカーの片側コイルを巻き直し 材質:ブラックエナメルAWG42 巻き数:6250回 ポッティング処理:なし |
修理費用 | 5,000円+税(返送料含む) |
オーナー様 負担額 |
5,500円+郵送費2回(クリックポスト185円*2) |
付属品 |
なし |
修理期間 |
平均1~2週間程度。 今回:郵送日を除く、巻き直し1日、配線修正2日 |
保証内容 |
通常使用範囲での不具合発生時の無償補修 |
ご依頼いただきまして、誠にありがとうございました。ピックアップ巻き直しに関するお問い合わせ等ございましたら、お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
ねこだまり工房株式会社