【製作事例】X100 #010 WOODなSTピックアップ【非売品】
ねこだまり工房で開催中のピックアップ企画【X100】の#010の製作事例です。
X100の企画についてはこちらからご確認ください。
【開発小話】Xシリーズピックアップ100種類の製作チャレンジ【X100】 – ねこだまり工房直営オンラインストア (nekodamari.work)
#010の概要
節目となりますので、目新しい素材で制作です。
まずは外観はこちらになります。
さてシルエットは、ごく普通のSTピックアップなのですがホビン素材をこの写真で特定できる方は相当な木材オタクでしょう。
木製ピックアップってあるの?
皆様ご存じのとおり、ギターは木材から作られます。(その他の材質は一旦保留に)
では「ピックアップを木製で作るのか?」というと、木製のものはほぼありません。
もし耳にしたことがある、見た事がある場合でも、『木製カバーが付いているピックアップ』である事がほとんどじゃないでしょうか。
切削加工で、木材を削って木製カバーを作っていると思います。
ではどんなギターについているかと言えば、海外メーカーや国内メーカーのショーモデルの様な1,000,000円(100万)を超える様なハイエンドのものに搭載されている事が多いです。
一般的なリプレイスメント(交換可能パーツ)で調達できる事はあんまりないかと思います。
「カバーは木製だけど、中身のピックアップはいつも通り」が世の中にあるなら、「じゃあ中身まで木製のピックアップ作りたくなるよね」という発想で作りました。
木製ピックアップは、実際に使えるのか?
ギターメーカーが使っていないという事は、次の様な仮説が考えられます。
・『木製ホビンで作ると、音が出ない。使えない』説
・『木製ホビンで作れなくはないが、難しい、現実的ではない』説
・『木製ホビンで作ろうと思った人がメーカーの中にあんまりいなかっただけ』説
最初の『音が出なくて使えない』説は考えにくいと判断していました。木材は絶縁体ですし、絶縁破壊が起こる様な電圧がかかる部品でもないので使用はできるという発想です。
となると、「調べれば、木製ホビンで作るくらいの事をしている人は世界中のどこかにはいるであろう」と考える事もできるので、消去法で「難しいが製作可能」という見込みで試作してみました。
写真の木材の種類は、ギターの指板材などに使用される事もあるローズウッド系の『シタン』と、アッシュ系の『タモ』になります。こげ茶色の方がシタンで、黄色っぽい方がタモですね。
その他には、指板材やネック材にも使われる独特の模様の『ウェンジ』『パドゥーク』とかでも作ってみています。
製作上の課題 製作難易度・木材の個体差
さて、試作してみて分かる点なのですが、量産に適さない幾つかの点が見つかりました。
・純粋に制作難易度が高い
加工の要求精度がかなりシビアになります。何より、樹脂と比較して木材は部位によって硬さもしなりも異なる均一ではない材質です。
その為、例えば1番のピンはOKでも、3番のピンはNGという事が起こります。
NC加工でも精度を高めた加工方法が必須になりそうな気がします。
・木材特有の対策 割れ・乾燥
樹脂と比較した際に、乾燥による割れ等のリスクが発生します。カバーであれば最悪カバーを交換するだけで良いですが、中身が割れた場合にはピックアップ断線となりますので、このリスクが作らない最大の理由ではないでしょうか。
・木材の個体差
これまた厄介な事に、ギターの指板材に使用されるような硬質な木材を使おうとすると、硬さの違いや乾燥度合いの違いなどが加工に影響してしまいます。木材の目利きだけでなく、加工方法の研究も必要になりそうです。
・サウンドの個体差
試作品は、音出しも無事にできていますが、沼ポイントが発生しました…。
『シタン』と『タモ』では同じマグネット、同じ銅線、巻き数で比較してもサウンド傾向が違います…。
この事から、『シタン』の中でもサウンド傾向が異なる可能性があり、個体差が発生してしまう可能性が高い点も、メーカーで均一な製品開発をする際に除外されたポイントになりそうです。
ねこだまり工房の攻略方法
現段階で、上記の想定されるリスクの幾つかはクリアできそうな見込みです。
気合でどうにかするしかないのが、次の2つですね。
・『制作難易度』の問題
⇒気合で何とかする。新規設備とか、製法とか。
・『木材の個体差』の問題
⇒目利きを磨いて何とかする。仕入れの工夫とか、乾燥処理とか。
残りの点に関しては、具体的に対策が行えそうです。
・『木材の割れ、乾燥』の問題
⇒乾燥による割れが発生するプロセスを考えると、「外気の影響を受けて木の内部の水分量が変化した時に起こる収縮」を予防できれば対策できます。
ねこだまり工房では、ポッティング処理に指板の保湿保護に使用できる自社製の蜜蝋ワックスをアレンジしつつ用いる事があります。
ホビンの木部に、予め浸透保湿をしておき、表面保護作用のあるポッティング処理と組み合わせる事で、実用的なピックアップとして活用できると見込んでいます。
一般的なピックアップ製作プロセスでは使わない方法を使用していますので、一般論としての割れに対するリスクは、ねこだまり工房では低くできる見込みです。
・『サウンドの個体差』の問題
⇒前述と重なりますが、ポッティング処理を活用して対応できる見込みです。
個体差は、巻き線工程でも発生する可能性があります。個体差を減らすには、「同じ作用のある」「同じ素材で」「同じ処理をする」など一定の製法にする事で、不確定要素を減らしていく事が必要です。
ねこだまり工房がポッティング処理を注視している理由も、そこにあります。
機械を統一し、巻き方、素材を統一したピックアップを、同じ作用のあるポッティング処理を行う事で一定の品質を保てると考えています。
わずかに巻き線工程で誤差が生じたとしても、後工程で同じ作用が得られる処理ができれば、大きく異なるサウンドになる事は考えにくいです。
その為、製造誤差が仮にあったとしても製品が定めるコンセプトや方向性から大きく外れる事のない、安定したピックアップとして提供できます。
木材の個体差があったとしても、方向性やコンセプトをしっかりと定めていれば同じテイストで楽しめるピックアップにする事は可能だと考えているところです。
とは言え、個体差を塗りつぶす様な処理は好みではないので、『個体差を楽しめる』様な提供の仕組みにしていくべきかなと、多方面から方法を模索しているところです。
余談とまとめ #010のスペック紹介
節目の#010は木製のSTピックアップとなりました。
販売予定がないので、詳細情報は非記載とさせていただきます。
交換可能なリプレイスメントパーツとして、木製ピックアップは面白みがあるかなと思いますので、早々に製品化したいところですね。
現状だと製作難易度が高いのに加えて、個体差が出やすくなってしまいますので、安定して製作できる方法含めて研究中です。
木材の種類で音の傾向を、狙って作れればさらに面白そうです。
#010は研究目的の保管につき、販売予定はありません。類似スペックが製作された場合は販売できる様にさせていただきます。ご期待ください。
#010スペック
対応機種 | STタイプ |
ホビン素材 | 木製 シタン・タモ |
マグネット | アルニコ5 フラットポールピース |
銅線 | |
リード線 | クロスワイヤー |
ポッティング処理 | ローノイズ、ミッド強化のポッティング処理 |
特殊細工 | |
仕様 | |
抵抗値 | なし
|
付属品 |
なし |
保証内容 |
非売品に付き、なし |
注記事項 | 非売品に付き、記載なし |
販売情報 |
研究用に保管される為、販売はありません。 |
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